黒部峡谷を描いた作品
田渕俊夫作品集

「流」(十字峡)
1995年(平成7年) 165.1×336.8 (四曲一隻屏風) 紙本着彩
第80回 院展出品作
右下から左上に向かって流れているのが黒部川です。
右岸から棒小屋沢が合流し、それに向かい合う形で左岸からは剱沢が流れ込んでいます。
この3つの川がちょうど十文字に交わる奇観に感動した登山家・冠 松次郎によって
「十字峡」と名付けられた、黒部峡谷の絶景地が描かれています。
作家は、断崖絶壁に拓かれた幅わずか80センチほどの旧日電歩道を、往復5時間かけて歩き、
十字峡へ赴きました。そして写真で見た十字峡と実際に見た風景とがまるで違っているのに驚いたと言います。
黒部川が岩を侵食してどんどん地形が変わっていったためでなのですが、
その透明な水のエネルギーがこの作品の主題となっています。

「黒部 氷筍」(くろべひょうじゅん)
1994年(平成6年) 142.0×112.0 紙本着彩
1994年 142.0×112.0
氷筍とは、黒四発電所建設のために黒部奥山の山腹に掘られた横坑に、
2月中旬から3月初旬にかけてできる、氷の柱です。
横坑の天井岩盤よりしみだした水が、凍り、つららとなりますが、
このつららの先端からしたたる水も地面で凍りつきます。
これは、雫の落下が繰り返されるたびに、上へ上へと大きく育って行きます。
これが「氷筍」で、あたかも氷の竹の子のように見えます。
この氷筍は、寒すぎても、つららから滴る水が全て凍ってしまい、できませんし、
もちろん暖かくてもできません。
特殊な条件下でできる、大自然が生み出す造形の一つなのです。
田渕先生は、厳冬の2月末に、トロッコは動いておりませんので、長野県の大町側から入山され、
非常に寒い中で、懐中電灯のわずかな明かりを頼りに、棒小屋沢横坑でスケッチをしていただきました。
それは、あたかも山の霊気が凝縮したかのような神秘な造形です。
深閑とした人知れぬ黒部峡谷の地下で、ひそかに造られる氷筍。
かつての人間が穿った空洞には、今、自然の力が満ち満ちているのです。
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